第2講 質料の規則 白無垢と色内掛け – color

白無垢

色内掛

ことの発端は学生時代にル・コルビュジェのサボワ邸を見に行ったときである。うそみたいな話だが、あの白い箱(と思われている)が当時のポストモダンよろしく1階と3階が5〜6色のパステルカラーに塗られていたのである。いったいどういうことか謎だった。これがオリジナルの色だと言うフランス人もいた。それから15年くらい経ち、5〜6年前に訪れたときは外部は白く塗り替えられて写真で紹介されているサボア邸の色に戻っていた。

あの幻のパステルカラーのサボア邸の謎は解明できていない。ペンキだからどれが本当の話か分からない。ミースがワイゼンホーフに作った住宅も、もとの色はピンクだと書いている本もある。

建築を色まみれにすることに強い興味があるわけではない。ただ色が強い力を持っていることを否定する気にはなれない。世界中の建築に接するときに、色だから起こる強い感動は紛れもなくあるからだ。

じゃあ一体それは何に起因するのか、そしてそれは色がどういう形で現れたときに表現の強度を持ちうるのか。そこに興味は移っていったのである。

サボアに行った2年後、アメリカ留学中に、僕のとったスタジオの先生であるリカルド・リゴレッタというメキシコの建築家に連れられ、彼の作品とバラガンの作品を見にメキシコへ行った。彼らメキシコの建築家はメキシカンピンク、イエロー、パープルという独特の彩度の高い色を三原色のように使うのである。そしてメキシコの強い太陽の光のもとでこれらの色は単純に物体の色としてだけではなく、空間内に反射して、その空間の空気をその色にしてしまうのである。このあたかもコップの水に絵の具を垂らし、水の色を変えてしまうようなそんな色(カッツの言う面色)の現れ方に強く惹かれるようになった。そうした面色としての色をどうしたら再現できるのか、その後いくつかの自分のプロジェクトで試してみることになった。

I 白と言われてきたモダニズム

1)ル・コルビュジェの白
a, コルの色彩変化
i. ローカルカラーの時代(1920年代初頭)
ii. 白の時代(1920年代)
iii. 自然素材の色への興味を示した時代(1930年代から1940年代前半)
iV. 極彩色の乱舞の時代(1940年代後半以降)

b, 白の時代

2)ホワイト派、グレー派

3)白と透明の器たち

II コルビュジェには色が生きていた

1)ローカルカラーの時代の色
—シュウォッブ邸

2)白の時代の色
a, ペサックの集合住宅
b, ワイゼンホーフ
c, ジャンヌレ邸、サボワ邸
d, 同時代の色(バウハウスの色)

3)極彩色の時代の色
a, チャンディガールの建物群
b, ユニテ

4)壁紙デザイン

III 同時代アートの色(ミニマリズムの色)

IV 物体色から空間色へ

—カッツの面色
a, バラガンの面色

V 白い色

—色は光
a, ガラスの色
b, 布の色1、2

付録1 コールハースの色
付録2 ノーマンフォスターの色
付録3 メンディーニの色

《参考文献》

[A]…講義の理解を深めるために是非一読を(入手も容易)。
[B]…講義の内容を発展的に拡張して理解したい人向け。
[C]…やや専門的だが、面白い本。
[D]…やや専門的かつ入手困難だが、それだけに興味のある方は是非。

  1. 村田純一、2002『色彩の哲学』、岩波書店 [A]
    ● 色彩論の本ではこれが一番面白い。
  2. 小町谷朝生、1991『色彩と感性のポリフォニー』、勁草書房 [B]
    ● 題名の示す通り、色と感性の交感をテーマとした良書。
  3. 小町谷朝生、1987『色彩のアルケオロジー』、勁草書房 [B]
    ● 色と人間とのかかわりの諸現象を分析。
  4. 大山正、1994『色彩心理学入門』、中公新書 [B]
    ● 色彩学の通史としてもっとも分かりやすい入門書。
  5. ルードウィヒ・ウィトゲンシュタイン(Ludwig Wittgenstein)、1997(1977)『色彩について』(中村昇/瀬島貞則訳)、新書館 [B]
    ● 色の公理と格闘する書。
  6. ゲーテ(J. W. V. Goethe)、2001『色彩論』(木村直司訳)、ちくま書房 [B]
    ● 色彩論の古典。
  7. レイトナー(B. Leitner)、1989(1976)『ウィトゲンシュタインの建築』(磯崎新訳)、青土社 [B]
    ● ウィトゲンシュタインの論理同様に彼の建築の緻密さが現れる。
  8. フィリップ・ジョンソン、ヘンリー=ラッセル・ヒッチコック(Philip Johnson, Henry-Russell Hitchcok)、1978(1932)『インターナショナル・スタイル』(武澤秀一訳)、鹿島出版会 [B]
    ● 四角く白い箱が何故生まれたか、その起源はここにある。
  9. テオ・ファン・ドゥースブルフ(Theo van Doesburg)、1993(1925)『新しい造形芸術の基礎概念 バウハウス叢書6 』 (宮島久雄訳)、中央公論美術出版 [B]
    ● バウハウス叢書はすべて当時のモダニズムの息吹が伝わる興味深い書。なかでもドゥースブルフはもっともラディカルなモダニストであり、その理論は力強い。
  10. Rem Koolhaas, Norman Foster, Alessandro Mendini, 2001 “Colours”, Birkhauser [C]
    ● 色はコールハースが語っても面白く(ロジカル)にはならないか?
  11. 谷川渥/坂牛卓対談、2003 「建築の質料とモダニズム」、『芸術の宇宙誌 谷川渥対談集』所収、右文書院 [C]
    ● 美学の逆説以来、一貫して近代美術の質料的考察を行う谷川氏と坂牛の質料(色)をめぐる対談。
  12. Arthur Ruegg (ed.), 1997 “Le Corbusier Polychromie architecturale”, Birkhauser [D]
    ● 今まで明かされなかったコルビュジェの色についての考察と、コルのカラーキーボードの復刻版。
  13. 林美佐、1995 『色彩の鍵盤ール・コルビュジェの建築と色彩』、ギャルリー・タイセイ [D]
    ● コルの色彩に関する(私の知る限り)日本で最初のまとまった論考。
  14. 藤幡正樹、1997『カラー・アズ・ア・コンセプト —デジタル時代の色彩論』、美術出版社 [D]
    ● 色彩のデジタル分析手法の紹介。