第3講 質料の規則 スケルトンとブラックボックス – transparency

スケルトン?

ブラックボックス?

ケネス・フランプトンの『TECTONIC CULTURE』という本がある。2年程前、ある大学院のゼミで半年かけて輪読した。毎回図書館に皆で行き、出てくる建築家の作品集から、ドローイングから漁りながら、久しぶりにモダニズム建築家の勉強をした。なかなか面白い本だったので、事務所で開いている月1の勉強会でも輪読した。二度ほど読んでみて、確かにフランプトンの信念のようなものが伝わってくるのだが、どうしても腑に落ちない部分がある。

何故テクトニックであることがいいことなのか、その一番大事といえば大事なそのポイントがどうしても腑に落ちなかったのである。

しかし、二度の輪読も終えて少したったあるとき、その昔、素材をテーマとした雑誌(GA素材空間)の企画で考えていたことがテクトニックにオーバーラップしてきた。

素材論で考えていたことの中には、技術哲学、大袈裟に言えば文明論のようなこともあった。現名古屋工業大学の学長である柳田博昭先生からはテクノデモクラシーということばで誰でも分かる技術の重要性を強くお教えいただいた。その中には、技術をブラックボックス化してはいけないという教えがあった。

建築にもその話は共有されることがありそうだ。ローテクと言われながらも建築は大学の工学部で教えられるものであり、いろいろな側面から、工学的な研究成果が導入され、建物の様々な部位にブラックボックス化して侵入してきているのである。壁の内側、天井裏で、床の下に、何が起こっているか?使っている人でそこを覗いたことがある人はいますか?そう、柳田の教えに従えば、そういうところを隠して何かおこっても誰も何も治せないのでは駄目だということなのである。

技術のスケルトン化があるべき技術の姿の一つであり、柳田の推奨するテクノデモクラティック建築である正倉院とフランプトンの主張するテクトニック建築がどこかで重なって見えてくるのである。

I スケルトンなこと

1)Mac
2)スウォッチ
3)wrapデザイン

II ブラックボックス化する建築

1)コンビニ建築
a, 窒息建築
b, 感電建築

2)ディズニーランド建築

3)XL建築

III スケルトン派の系譜

1)ゼンパー

2)フランプトンによるテクトニクス
a, テクトニクス=部品
b, テクトニクス=ジョイント
c, テクトニクス=構造
d, テクトニクス=地面との関係が深くなる

3)ケーススタディハウスの建築家

IV 未来の材料論

1)平明性
2)少量性
3)多機能性

IV 造りの中に見えるもの

1)素材(場所)
2)技術(時代)

《参考文献》

[A]…講義の理解を深めるために是非一読を(入手も容易)。
[B]…講義の内容を発展的に拡張して理解したい人向け。
[C]…やや専門的だが、面白い本。
[D]…やや専門的かつ入手困難だが、それだけに興味のある方は是非。

  1. 柳田博明、1976『テクノデモクラシー宣言』、丸善新書 [B]
    ● 技術哲学者柳田の一般向け入門書。
  2. 柳田博明、1993『次世代素材インテリジェントマテリアル』、講談社ブルーバックス [C]
    ● 技術哲学者柳田の一般向け入門書。
  3. 坂牛卓、2000「実践するコンクリート」、『GA素材空間01』所収、A.D.A. EDITA Tokyo [C]
    ● 柳田に感化された坂牛のコンクリート論。
  4. SD 編、1999 『SD 実践するマテリアリティ』5月号、鹿島出版会 [C]
    ● 昨今の素材ブームの雑誌化、写真がきれい。
  5. ケネス・フランプトン(Kenneth Frampton)、2002(1983) 『テクトニックカルチャー』(松畑強/山本想太郎訳)、TOTO出版 [A]
    ● フランプトン渾身の力作。モダニスト、フランプトンの修正モダニズムということもできるか。
  6. 三上祐三、2001『シドニーオペラハウスの光と影』、彰国社 [B]
    ● シドニーオペラハウスを知るならこれ。
  7. 岸和郎/植田実 、1997『ケース・スタディ・ハウス』、住まいの図書館出版局 [B]
    ● ケース・スタディ・ハウスに詳しい日本人が多くコメントしている読みやすい入門書。

第2講 質料の規則 白無垢と色内掛け – color

白無垢

色内掛

ことの発端は学生時代にル・コルビュジェのサボワ邸を見に行ったときである。うそみたいな話だが、あの白い箱(と思われている)が当時のポストモダンよろしく1階と3階が5〜6色のパステルカラーに塗られていたのである。いったいどういうことか謎だった。これがオリジナルの色だと言うフランス人もいた。それから15年くらい経ち、5〜6年前に訪れたときは外部は白く塗り替えられて写真で紹介されているサボア邸の色に戻っていた。

あの幻のパステルカラーのサボア邸の謎は解明できていない。ペンキだからどれが本当の話か分からない。ミースがワイゼンホーフに作った住宅も、もとの色はピンクだと書いている本もある。

建築を色まみれにすることに強い興味があるわけではない。ただ色が強い力を持っていることを否定する気にはなれない。世界中の建築に接するときに、色だから起こる強い感動は紛れもなくあるからだ。

じゃあ一体それは何に起因するのか、そしてそれは色がどういう形で現れたときに表現の強度を持ちうるのか。そこに興味は移っていったのである。

サボアに行った2年後、アメリカ留学中に、僕のとったスタジオの先生であるリカルド・リゴレッタというメキシコの建築家に連れられ、彼の作品とバラガンの作品を見にメキシコへ行った。彼らメキシコの建築家はメキシカンピンク、イエロー、パープルという独特の彩度の高い色を三原色のように使うのである。そしてメキシコの強い太陽の光のもとでこれらの色は単純に物体の色としてだけではなく、空間内に反射して、その空間の空気をその色にしてしまうのである。このあたかもコップの水に絵の具を垂らし、水の色を変えてしまうようなそんな色(カッツの言う面色)の現れ方に強く惹かれるようになった。そうした面色としての色をどうしたら再現できるのか、その後いくつかの自分のプロジェクトで試してみることになった。

I 白と言われてきたモダニズム

1)ル・コルビュジェの白
a, コルの色彩変化
i. ローカルカラーの時代(1920年代初頭)
ii. 白の時代(1920年代)
iii. 自然素材の色への興味を示した時代(1930年代から1940年代前半)
iV. 極彩色の乱舞の時代(1940年代後半以降)

b, 白の時代

2)ホワイト派、グレー派

3)白と透明の器たち

II コルビュジェには色が生きていた

1)ローカルカラーの時代の色
—シュウォッブ邸

2)白の時代の色
a, ペサックの集合住宅
b, ワイゼンホーフ
c, ジャンヌレ邸、サボワ邸
d, 同時代の色(バウハウスの色)

3)極彩色の時代の色
a, チャンディガールの建物群
b, ユニテ

4)壁紙デザイン

III 同時代アートの色(ミニマリズムの色)

IV 物体色から空間色へ

—カッツの面色
a, バラガンの面色

V 白い色

—色は光
a, ガラスの色
b, 布の色1、2

付録1 コールハースの色
付録2 ノーマンフォスターの色
付録3 メンディーニの色

《参考文献》

[A]…講義の理解を深めるために是非一読を(入手も容易)。
[B]…講義の内容を発展的に拡張して理解したい人向け。
[C]…やや専門的だが、面白い本。
[D]…やや専門的かつ入手困難だが、それだけに興味のある方は是非。

  1. 村田純一、2002『色彩の哲学』、岩波書店 [A]
    ● 色彩論の本ではこれが一番面白い。
  2. 小町谷朝生、1991『色彩と感性のポリフォニー』、勁草書房 [B]
    ● 題名の示す通り、色と感性の交感をテーマとした良書。
  3. 小町谷朝生、1987『色彩のアルケオロジー』、勁草書房 [B]
    ● 色と人間とのかかわりの諸現象を分析。
  4. 大山正、1994『色彩心理学入門』、中公新書 [B]
    ● 色彩学の通史としてもっとも分かりやすい入門書。
  5. ルードウィヒ・ウィトゲンシュタイン(Ludwig Wittgenstein)、1997(1977)『色彩について』(中村昇/瀬島貞則訳)、新書館 [B]
    ● 色の公理と格闘する書。
  6. ゲーテ(J. W. V. Goethe)、2001『色彩論』(木村直司訳)、ちくま書房 [B]
    ● 色彩論の古典。
  7. レイトナー(B. Leitner)、1989(1976)『ウィトゲンシュタインの建築』(磯崎新訳)、青土社 [B]
    ● ウィトゲンシュタインの論理同様に彼の建築の緻密さが現れる。
  8. フィリップ・ジョンソン、ヘンリー=ラッセル・ヒッチコック(Philip Johnson, Henry-Russell Hitchcok)、1978(1932)『インターナショナル・スタイル』(武澤秀一訳)、鹿島出版会 [B]
    ● 四角く白い箱が何故生まれたか、その起源はここにある。
  9. テオ・ファン・ドゥースブルフ(Theo van Doesburg)、1993(1925)『新しい造形芸術の基礎概念 バウハウス叢書6 』 (宮島久雄訳)、中央公論美術出版 [B]
    ● バウハウス叢書はすべて当時のモダニズムの息吹が伝わる興味深い書。なかでもドゥースブルフはもっともラディカルなモダニストであり、その理論は力強い。
  10. Rem Koolhaas, Norman Foster, Alessandro Mendini, 2001 “Colours”, Birkhauser [C]
    ● 色はコールハースが語っても面白く(ロジカル)にはならないか?
  11. 谷川渥/坂牛卓対談、2003 「建築の質料とモダニズム」、『芸術の宇宙誌 谷川渥対談集』所収、右文書院 [C]
    ● 美学の逆説以来、一貫して近代美術の質料的考察を行う谷川氏と坂牛の質料(色)をめぐる対談。
  12. Arthur Ruegg (ed.), 1997 “Le Corbusier Polychromie architecturale”, Birkhauser [D]
    ● 今まで明かされなかったコルビュジェの色についての考察と、コルのカラーキーボードの復刻版。
  13. 林美佐、1995 『色彩の鍵盤ール・コルビュジェの建築と色彩』、ギャルリー・タイセイ [D]
    ● コルの色彩に関する(私の知る限り)日本で最初のまとまった論考。
  14. 藤幡正樹、1997『カラー・アズ・ア・コンセプト —デジタル時代の色彩論』、美術出版社 [D]
    ● 色彩のデジタル分析手法の紹介。

第1講 質料の規則 のっとるとでこつるとのっざら – smoothness

のっざら

のっざら

でこつる

でこつる

なんとなくこんなことを考え始めるようになったのは建築の仕事を始めてから7〜8年たったころだと思う。それは、建物の外装材料を決める時のことである。工事中の現場で鉄骨が立ち上がったころに普通僕たちはおおよそ決めていた外装材料をベニヤ板に張って適当な高さのところに貼り付けてみるものである。色とつや、材種を確認するためだ。比較のために、色や、テクスチャ、などを変えて多いときは10種類くらいのパネル(サブロク版といいう3尺×6尺くらいの大きさだ)を貼り付けて見る。

当たり前だが、こんなことをするのには、結構手間も暇もかかる。ついでにお金もかかる。一生ものの特注品なのだから念には念を入れて作るのはあたりまえとしても、ここまで慎重を期して作るだけの効果が得られているのかというと、実は、そんな微妙な差を気にしているのは建築家だけ、もっと言えば、その差が分かるのは当のその建物を設計した建築家だけ。だから、これは恐ろしいほどの自慰行為と言えなくもない。

その時以来、建築の表面の質感の視覚像は、割りと単純な原理に支配されていると考えるようになった。

1:建築はつるつるしているか、ざらざらしているかその程度の差で認識される。

2:ただし建築は遠くから見るときと、近くから見るときがある。(もちろんその中間が限りなくあるがとりあえずモノサシの両側を考える)その両方でつるつるざらざらは感じられる。

3:近くから見ているとき表面の質感を決めるのはミリ単位の表面の肌理なのだが、遠くから見るとき、(例えば高層ビルを100メートル離れたところか見るとき)表面の質感みたいなものを決めるのはもはやミリ単位の話ではなく、数十センチ、或いは数メートルのでっこみへっこみである。

4:そういうものは近くから見ているときは質感ではなく、かたちと呼ぶ範疇に入っているのだが、遠くからみると質感と呼ぶ範疇に滑り込んでくる。これが建築の特殊性である。

5:近くから見たときの「つるつる・ざらざら」という指標と遠くから見たときの「のっぺり・でこぼこ」という指標のマトリックスのどこかに建築の質感像は分類される。

6:ちょっと乱暴だが、この四つの分節以上の分節化は視覚の閾値を越えていて、余り意味のない領域に入る可能性がある。

I インターナショナルスタイルの教えがのっぺりつるつるを作った

1)マスからヴォリュームへ
2)ル・コルビュジェのレンガ積の家

II それまでの建築はでこぼこざらざらだった

III 現在1:のっざら

1)のっざらマテリアル
2)アラベスク
3)うろこ
4)甲冑
5)配管
6)アルゴリズミックビューティー
7)絵画に見るのっざら

IV 現在2:でこつる

1)でこつるマテリアル
2)ねめり反射
3)鏡反射
4)とんがり

《参考文献》

[A]…講義の理解を深めるために是非一読を(入手も容易)。
[B]…講義の内容を発展的に拡張して理解したい人向け。
[C]…やや専門的だが、面白い本。
[D]…やや専門的かつ入手困難だが、それだけに興味のある方は是非。

  1. フィリップ・ジョンソン、ヘンリー=ラッセル・ヒッチコック(Philip Johnson, Henry-Russell Hitchcok)、1978(1932)『インターナショナル・スタイル』(武澤秀一訳)、鹿島出版会 [A]
    ● 四角く白い箱が何故生まれたか、その起源はここにある。
  2. ジャン・ヌーベル展カタログ(東京オペラシティアートギャラリー)、2003、サントリーミュージアム [C]
    ● ヨーロッパ的な質料感を充満させる建築家ヌーベルの手の込んだ展覧会のもっと手の込んだ作品集と言説。
  3. 多木浩二、2001「電子テクノロジー社会と建築」8月号/「日常性と世界性」9月号/「そこに風景があった」10月号/「ノイズレスワールド」11月号/「建築あるいは非建築」12月号、『ユリイカ』所収、青土社 [B]
    ● 多木浩二が伊東、坂本、山本、妹島らの最近作をかたる興味深い論考。
  4. 藤幡正樹、1999『アートとコンピューター』、慶応義塾大学出版会 [D]
    ● 藤幡正樹によるコンピューターアートの射程。
  5. 坂根巌夫、2003『拡張された次元ー科学と芸術の相克を超えて』、NTT出版 [D]
    ● コンピューターアートの存在意義を確かめる含蓄のある論考。
  6. リチャード・ドーキンス(Richard Dawkins)、1993(1986)『ブラインド・ウォッチメイカー』(日高敏隆監訳)、早川書房 [B]
    ● 『利己的な遺伝子』で有名なドーキンスの進化論の名著。
  7. 三嶋博之、2000『エコロジカルマインド』、NHKブックス [A]
    ● アフォーダンスを知るならまずこの本から。特に建築とのかかわりはこの本がわかりやすい。
  8. アロイス・リーグル(A. Riegl)、1970(1893)『美術様式論』、岩崎美術社 [A]
    ● ゼンパーの唯物論に対し、芸術意思を説く古典的名著。
  9. ケネス・クラーク(Kenneth M. Clark)、1988 (1973)『ロマン主義の反逆』、小学館 [C]
    ● 質料の噴出をロマン主義にみる。
  10. 谷川渥、1993『美学の逆説』、勁草書房(2003、ちくま学芸文庫) [A]
    ● 私が質料問題に関心を持つようになった個人的に(もちろん一般的にも)大事な本。
  11. 谷川渥、1995『見ることの逸楽』、白水社 [B]
    ● 質料的芸術家の分析。
  12. 谷川渥、2003『廃墟の美学』、集英社新書 [B]
    ● 形式の奥に秘められた質料を暴くもの、それが廃墟。
  13. ポール・ヴァレリー(P. Valery)、1923「エウパリノスまたは建築家」、1978『建築論』(森田慶一訳)所収、東海大学出版会 [B]
    ● 詩人を建築家として規定。「人間が作るものと自然が作るものとはどう違うのかという問い」(柄谷)。
  14. 佐々木敦、2001『テクノイズ・マテリアリズム』、青土社 [B]
    ● 音楽の中に質料を見る。
  15. 柄谷行人、1983 『隠喩としての建築』、講談社(1989、講談社学術文庫) [A]
    ● 論考「形式化の諸問題」に形式の限界が語られる。
  16. 東浩紀、2001『動物化するポストモダン』、講談社 [A]
    ● ポストモダン再考の書として最もアクチュアルな時代分析。
  17. アレクサンドル・コジェーヴ、1987(1947)『ヘーゲル読解入門』、国文社 [B]
    ● アフォーダンス始まり。建築的にも大変興味深い書。
  18. ギブソン(J. J. Gibson)、1985(1979)『生態学的視覚論』(古崎敬訳)、サイエンス社 [B]
    ● アフォーダンス始まり。建築的にも大変興味深い書。
  19. 岩城見一、2001『感性論−エステティックス』、昭和堂 [B]
    ● そもそもの美学であるところの感性の論。資料問題は感性論抜きには語れない。
  20. ヴォルフガング・ヴェルシュ(Wolfgang Welsch)、1998(1990)『感性の思考—美的リアリティの変容』(小林信之訳)、勁草書房 [B]
    ● 著者が言うように、美学がアクチュアルになれるとするならそれは感性的思考という部分においてであろう。