第1講 性格 Character

 □建物は意味を伝えるか?もし伝えるならいかにして識別するか?

1. 20世紀における性格という語の使われ方

1.1 コリン・ロウはこの語をモダニズムの語彙から抹消しようとした
建築の意味はその知覚のうちにのみ存在するため、建築はその直接の実在以上のものを表象できないとするものであった。
しかし多くのモダニストがこの語を使う
—オットー・ワグナー(建物の性格表現を明晰に)、
デヴィッド・メッド(色彩は建物の性格を決定づける)、
ケヴィン・リンチ(ボストンに望まれる特徴的な性格)、
ロバート・マックスウェル(ミシソーガ市庁舎の性格)

2. 過去20年間の性格の使われ方

2.1 シュルツは建築の基本用を「空間」と「性格」においた。このとき性格とは環境に自らを同定すること。特定の場所でいかに自らがあるかを知ること。
2.2 ダリボア・ヴェゼリー:「性格」という概念は建物とその裏にある意味とを区別しようとして、建築本来の表象性に混乱をきたした

3. 18世紀の「性格」

3.1 ジェルマン・ボフラン:『建築書』(1745)(用途の表現)
これらの様々な性格を知らない者、あるいはそれを作品の中で感じさせることのできない者は建築家ではない……大宴会場や舞踏場は教会と同じような方法で作られてはならない……建築におけるすべての様式やオーダーには、それぞれの建物の種別にもっとも適した特徴的な性格を見いだすことができる。
しかし、ボフランの考えは詩や演劇からの流用が多かったが、それらの類型は建築そぐわず、違う分野からの借用を考えた。これがロウなどの純粋性を重んじるモダニストには受け入れられなかった。
3.2 J=F・ブロンデル:『建築講義』(1766)(用途の表現)

すべての建物はその全般的な形状を決定し、どういう建物かを表明する性格を持つべきである。固有の性格が彫刻のみによって示されるのでは不十分である……優れた全体の建物配置[disposition]、形態の選択、それらの根底にある様式が、その種類の建物にのみ相応しい関係性を与えるのである

ブロンデルはさらに六四の異なる建物のジャンルの区別を行い、その中で各々に相応しい形態と装飾について論じた。それより前の『建築講義』第一巻第四章において、ブロンデルは建築において可能な性格の領域について説明した。そこでは少なくとも三八の性格を挙げたが、その中には、崇高、高貴、自由、男性的、堅固、剛健、軽い、優雅、繊細、牧歌的、純真、女性的、なぞめいた、壮大、大胆、恐ろしい、矮小、うわついた、放縦、両義的、不明瞭、粗野、単調、軽薄、貧弱などの言葉が含まれている

3.3 J=D・ルロワ:『コンスタンティヌス一世から今日までキリスト教徒が教会に与えた様々な配置と形態の歴史』(1764)(雰囲気の喚起)
建築で表現される主題を文学ではなく自然の体験から引き出すことを提案した
3.4 ロード・ケームズ:『批評の原理』(1762)とトーマス・ワットリー:『近代造園の言説』(1770)では18世紀後半の性格議論の中心である自然の感動に匹敵するものを建築にみつける努力が行われる。(雰囲気の喚起)
ケームズ:ケームズは建築の快の一部としてその有用性の表現を強調したが、芸術の基礎である「ある快い感情や感覚」を創り出すために、直接的で寓意的な趣向を凝らすことには批判的
ワットリーは、三つの性質──象徴的、模倣的、独創的──からなるより厳密な「性格」の分類を提示した
3.5 カミュ・ド・メジエール、ブレ、ルドゥを魅了したものは建築が思考に頼ることなく心に直接訴えかけるという考え
ル・カミュ・ド・メジエール(建築の特質』(1780)彼の性格の概念の説明を行うにあたって、絵画と演劇における類比を活用しながらも、究極的には建築が独自の性格を生み出しうるとしていた。(雰囲気の喚起)
3.6 アレクサンダー・ポープ『ロード・バーリントンへの書簡』(1731)(場を作る)
建てる、植える、何を意図しようとも
柱を立てる、アーチを架ける
土地を盛る、{岩屋|グロット}を掘る
すべてにおいて、決して_自然_を忘れるな
すべてにおいて_場_の_精霊_に問いかけよ
3.7 サー・ジョン・ソーン (用途、場、雰囲気)18世紀最も性格を主張した建築家
3.8 十八世紀に展開されたもうひとつの「性格」の包括的な議論はドイツ・ロマン派おもにゲーテと結び付けられるが、「表出する性格」の理論は様々なフランスの理論への反論において展開された。
ゲーテ:「ドイツ建築について」(1772)、すべての芸術や建築の真実はその製作者の性格を表現する度合いにかかわっていると推論した。
例:大聖堂の石工、エルヴィン・フォン・シュタインバッハの魂の表現
この「表出する性格」がその後のドイツ英語圏での性格論の主流となる。
3.9 ラスキン:『ヴェニスの石』(表出する性格を理解する条件)

一連のレリーフを用いて聖書の歴史を記録した建物は、あらかじめ聖書に親しんでいない者にはまったく用をなさない。……つまり繰り返せば、感情に訴えかける力は、見る者が非常識であったり、つれなかったりすると、変化したり、消えてしまったりするのだ。

続けてラスキンはゴシック建築の物質的な形の六つの性質(粗野、変化に富むこと、自然主義、グロテスク、堅固さ、過剰さ)を列挙し、ついでそれらの性質と建設者の精神的な傾向との対応関係を示した。

3.10 ヴィオレ=ル・デュック:
建物が持ちうる意味はその構造の完全性でしかなく、性格の体系などは不必要なものであった。
レオポルド・アイドリッツ、ヘンリー・ヴァン・ブラント、サリヴァン

4. 再度20世紀の性格

—あらゆる意味での性格という概念の、二十世紀初めにおける相対的な衰退は、おもに構造合理主義の影響によるものと見受けられる。構造合理主義が定着した所ではことごとく「性格」という語が愚弄された。例えばW・R・レザビーは一九一〇年の合理主義的な講演「冒険の建築」をこう結んだ。

近代的な精神にとってのデザイン手法とは、可能性の明確な分析という科学的な、あるいは技術者の、感覚からしか理解し得ないものである。──詩的な事柄に対するあいまいで詩的な扱い方や、そこから派生する家庭らしさ、牧場らしさ、教会らしさ──多様な趣を扱うこと──過去百年間建築家たちが行ってきたこととは異なるのだ。(95)