第10講 関係の規則 きのこと宇宙船 – site

近代は工学が発明された時代である。工学とはengineeringであり、もとをただせば、それはengine、つまり力を動きに変換する装置、平たく言えば乗り物の学であった。船舶、機械(自動車)、そしてその粋は宇宙船である。

しかし、動かないけれど、人間を包む乗り物(容器)としてどういうわけか日本では建築もこの工学の仲間に入れられてしまった。技術の粋としての願いがこめられたのである。しかし、建築は宇宙船にはなれないのである。地球を代表し宇宙に飛び出る宇宙船は地球技術の最先端を際限ない予算を背景に開発される。一方建築は先ずは何十億という人間の住む場、政治の場、経済の場として単なる技術の産物とはなりえないのである。

しかし、そんな状態に業を煮やす技術者が登場するのは当然と言えば当然だ。何故建築が、そんなローテクなわけ?戦後アメリカで突如不要になった軍需産業をもてあました行政の困惑と、技術指向の建築家の夢がアメリカンプラグマティズムに後押しされて次代の建築へ向けて合体した。フラー宇宙船建築の登場だった。技術の粋を集めたテクノ建築プロトタイプの登場である。

さて話は十数年の後日本に移る。民家研究をしていた篠原一男は「民家はきのこ」という有名はアフォリズムを発するとともに建築は敷地から、クライアントから、その他の様々な条件から自由であるべきだと語り、建築を芸術化した。篠原の目指したことは、アート建築プロトタイプの作成だった。

前者は技術を指向する意味でモダニズムであり、後者は建築を諸条件から切断しアート化するわけでその意味では近代合理主義に真っ向から離反する反モダニズムである。しかしその双方が建築の座るその「場」を条件として組み込む姿勢を見せないという意味で共通するところがあった。

これに対し、こうした敷地から切れた建築への反省が、コンテクスチャリズム、リージョナリズム、クリティカルリージョナリズム、という形で建築を思考するツールとになってきた。

建築は建築の外の世界とどうつながるジェスチャーを示せるのか、建築に問われている大きな問題なのだが、それは、外の世界の何とつながるのか、周辺の問題とは何なのかというテーマの選択へと話がずれ込んでいくのである。

I 宇宙船建築の系譜

1)グローバルアーキテクチャー
2)バックミンスターフラーの宇宙船 —どこでも誰でも簡単に作れる建築
3)篠原一男の敷地からも自由な建築

II 所謂きのこ建築

1)建築家なしの建築
2)民家というきのこ
3)regionalであること —復習 批判的地域主義
a, 批判的地域主義者
b, 批判的地位主義への批判
c, ダーティーリアリズム

III 宇宙から飛来したきのこを目指して
—建築を敷地に繋ぎ止めるもの
—外的要因によるアルゴリズム

1)法律  ガエハウス
2)時間  ルイジアナ美術館
3)構築性
a, case study house #22
b, Eames house
c, FREY HOUSE

《参考文献》

[A]…講義の理解を深めるために是非一読を(入手も容易)。
[B]…講義の内容を発展的に拡張して理解したい人向け。
[C]…やや専門的だが、面白い本。
[D]…やや専門的かつ入手困難だが、それだけに興味のある方は是非。

  1. バーナード・ルドフスキー(Bernard Rudofsky)、1984(1964)『建築家なしの建築』(渡辺武信訳)、鹿島出版会 [B]
    ● ヴァナキュラー建築に見られるグッドデザインの観察。
  2. ケネス・フランプトン(Kenneth Frampton)、1987(1983)「批判的地域主義に向けて—抵抗の建築に関する六つの考察」、ハル・フォスター編(ed. Hal Foster)、『反美学』(室井尚他訳)所収、勁草書房 [B]
    ● ツォニス、ルフェーヴルを受けて批判的地域主義を世に定着させた有名な論考。
  3. ノルベルグ・シュルツ(Christian Norberg-Schultz)、1973(1971)『実存・空間・建築』(加藤邦男訳)、鹿島出版会 [B]
    ● ヨーロッパにおける現象学的建築論の古典。
  4. マルチン・ハイデガー(Martin Heidegger)、1958『建てること、住むこと、考えること』(井上亮訳)、出版未定 [D]
    ● 建築現象学には必ずや参照される名論文。
  5. アレグザンダー・ツォニス/リアーヌ・ルフェーヴル(Alexander Tzonis / Liane Lefaivre)、1990『a+u9005』(中村敏男訳)、ダイヤモンド社 [D]
    ● 批判的地域主義初出後10年たち再考された論文。
  6. 八束はじめ、1998「インターナショナリズム vs リージョナリズム」、『20世紀の建築』所収、デルファイ研究所 [B]
    ● グローバリズムとリージョナリズムという昨今はやりの論調で建築を切り、批判的地域主義を批判する。
  7. 五十嵐太郎、1999「批判的地域主義再考」、『10+1』18号所収、INAX出版 [C]
    ● 批判的地域主義の系譜。
  8. 篠原一男、1950『住宅論』、鹿島出版会 [B]
    ● 篠原建築のエッセンス、あまりに美しい言説の数々。
  9. フレドリック・ジェイムソン(Fredric Jameson)、1998(1994) 『時間の種子』(松浦俊輔+小野木明恵訳)、青土社[B]
    ● 後期資本主義のポストモダン分析。
  10. A.Tzonis / L. Lefaivre, ‘introduction Between Utopia and Reality: Eight Tendencies in Architecture Since 1968’, “Architecture in Europe memory and invention since 1992”, Thames and Hudson [B]
    ● 8個に分類した現代建築の傾向。その中では、圧倒的にダーティーリアリズムが面白いのだが、、、、、これが本当に未来だろうか?